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朝ばれのいつかくもりて眞白雲峰に垂りつつ蛙鳴くなり 下ばらひ清らになせし杉山の深きをゆけばうぐひすの啼く つぎつぎに繼ぎて落ちたぎち杉山のながき峽間(はざま)を落つる溪見ゆ しらじらとながれてとほき杉山の峽(かひ)の淺瀬に河鹿なくなり 湖もいゝ。山の奧の靜かな湖、新樹がひそかに影をひたして、羽蟲の群がひくゝ水の上にまひ、小魚がをり/\跳ね、郭公が岸の木立の中で啼く。さうした景情を私は榛名山(はるなさん)の上の湖で心ゆくまで味つた事がある。 その湖には伊香保温泉を經て登つてゆくのだ。伊香保の若葉のよさは多くの人が知つて居ることゝおもふ。温泉町附近の木立の深いのもよく、其處から見渡した前面の廣々しい雜木原の新緑は全く心を躍らせた。人はよく伊香保の紅葉といふが、紅葉は何と云つても感じが乾いてゐる。枯れてゐる。 其處から湖までたしか二里か二里半の登りであつたと思ふ。その間、多くは松や落葉松の植林地を行くのであるが、その林の中に郭公がよく啼いた。松林を通り越すと、一里四方もありさうな廣い草原が見出された。其處の山窪の上の空には夏雲雀が無數に啼いてゐた。その草原を通り過ぎると湖の輝きが岸の木立がくれに見えて來るのだ。 湖岸に在る宿屋も氣持のいゝものであつた。宿の前の湖でとれた魚や蜆(しじみ)をいろいろに料理してたべさせてくれたのも嬉しかつた。私の行つた日の夕方からはら/\と雨が落ちて來て、翌朝はまたこの上ない晴であつた。 みづうみのかなたの原に啼きすます郭公の聲ゆふぐれ聞ゆ 湖(うみ)ぎはにゆふべ靄(もや)たち靄のかげに魚の飛びつつ郭公きこゆ 吹きあぐる溪間の風の底に居りて啼く郭公の煙らひきこゆ となりあふ二つの溪に啼きかはしうらさびしかも郭公聞ゆ